美容師さんの話

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約1年半前から、代官山のとある美容院に通うようになった。

自分の担当のKさんは”黙って座ればぴったしの髪にしてくれる”と噂されているらしく、まだ20代なのに実際腕はいい。
初めてカットしてもらったときは、それまでほかのお店では10分ぐらいで終わってたのを彼女は1時間半かけて丁寧にやってくれた。
もちろん、通ううちに時間も短くなってくる。
シャカシャカカットするはさみからは粒状ではなく、粉末状の髪が飛び散るのを見たのは初めてかもしれない。

そんな美容師さんだが、その道に専念するあまり、世間のことに疎いことが多い。
たまに会話がかみ合わなくなることもある。

サッカー全日本代表選手をカットするアシスタントに抜擢されてオーストラリアに行った時も、「メルボルンにはどうやって行きました?」って尋ねたら、「飛行機で行きました」と答えられて、一瞬の間ができてしまった。
聞き方も悪かったかもしれないけど、「Kさんは誰やったの?」って聞いたら、「全員とやりました」とドヤ顔でドキッとする返事が返ってきたリ。

「お客さんすごい珍しい島の出身なんですよねー。」と自分の田舎に話を向けられた時もある。
「えっ、まあ、最近良くテレビに出るようになったし、ロケットで子供たちにも人気ですからねぇ」って答えると。
「そうそう子供はみんな知ってますよね。私も一回行ってみたいなぁー。物語に出てくる島に…」

むむ?種子島が物語に出てくるなんて知らなかった。
「ねぇねぇKさん、うちの島、何の物語に出てたっけ?」と敢えて島の名前を伏せて尋ねたら、
「桃太郎に出るじゃないですか。鬼が島ですよね?お客さんは!」

やばい。どうハンドリングしたらいいかわからない、こんなボケ。
自分も彼女と同じ九州出身だって知ってるはずだし、鬼が島なんて岡山地方が舞台ってだけで、地図にもないし。
答えに困ってると隣のお客さんを担当されてた美容師さんが、助け船を出してくれた。

「お客さん、すごいでしょ、Kさん。」
「僕らもねー、ここのオーナーから本を読んだりいろいろ勉強して、お客さんとちゃんと会話ができるようにって言われてるんですけど、Kさんのボケの破壊力には誰もかなわないんですよ。」
「正直悔しいです。」
彼は続ける。「しかもKさん、20年に東京オリンピックが開かれるのを知ったのも今年になってからなんですよ。すごいでしょ!」と来た。

Kさんはその間ずっと、照れ笑いしながら彼の話を聞いていたが、ぼくが「じゃあ、あのエンブレム問題とかどう見てたの?」って聞いたら、
「エンブレムって何ですか?あとで調べてみます」と突然キリッとした顔に戻った。

そしてまた「でも、すごいですよねー。オリンピックって4年も前からどこでやるか決めるんですね!私初めて知りました。」と天真爛漫に続ける彼女。

本人も自分の天然を気にしているだけに、実は開催の8年前に決まるんだよ、というツッコミはどうしてもできなかった。
なんとか自分で気づいてくれー。