IT日本昔話: 三年寝てよし

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むかしむかし、江戸の隣の大きな藩でのお話です。
有限会社噴霧器の社長は共通言語体系社のMr.ベルさんに誘われて、藩のOA台帳システムの仕様説明会に行くことになりました。
ベルさんは日本語が堪能で、技術的知識や経験もあるSEさんですが、その場で仕様変更や実装上の可・不可を藩の役人に問われたときに即答できるよう、念のため噴霧器の社長に同行を求めたのです。

一通り名刺交換も終わり、さっそくベルさんのプレゼンが始まりました。社長はほとんど出番がないため、スクリーンに映し出される資料のページめくりを担当します。最初は緊張していた社長もだんだんその場の雰囲気に慣れてきて、改めて役人たちを見回す余裕も出てきました。発注部署の実務担当者が2人、情報セキュリティ担当が1人、そして・・・あ、発注部署の課長さん、寝てござる。プロジェクター用にやや明かりを落とした会議室の中、きっと淡々と進むベルさんの説明が子守歌のように聞こえたのでしょう。

説明も中盤に差し掛かったとき、部署が廃止になったり配置が変わった時、一体どこがその物品を担当するのかで、担当役人からその処理方法について、質問がありました。その部分はこちらも資料を作るときに大変悩んだところでしたので、ベルさんは待ってましたとばかりに、その処理方法について説明を始めます。

ところが、UI操作が単純な割にその内部処理が複雑になっているため、役人たちはなかなか理解してくれません。しまいには発注部署の役人さんが立ち上がり、ホワイトボードを引っ張り出してきて、自分で解釈した処理を図を描きながら、あっているかどうかの確認を求めます。するとホワイトボードを出されるとついエキサイトする癖のあるベルさんも立ち上がり、役人さんの持っていたマーカーを取り上げて、負けじとばかり図を描きはじめまます。

それから30分ほど役人さんとベルさんのお絵描き大会が続き、やっと役人たちも納得して次に進めるようになりました。もともと汗かきの鈴・・いや、ベルさんはもう汗だくになって自分の席にもどり、続きを始めます。

開始から2時間、声も枯れ始めたベルさんが一通りの終わりを告げ、もう質問はないだろうと安心しながら、お約束の「何か質問はございますか?」と役人たちに訪ねたとたんです。まるでその声を待っていたかのように、今までずっと寝ていた担当課長さんが突然座り直し、「オレがわかんねーのがよー」、先ほど役人さんとベルさんがみっちり書き込んだホワイトボードを指さして、「なんで、一旦そこで部署情報を外すかなんだよなー」と言い放ちました。

その場の役人たちの顔を見ると「あ、いや、もう終わったことだから。もうみんな納得しちゃってるから」という思いは官民問わず一致していたに違いありません。ところが、見た目も話しっぷりも哀川翔にそっくりの課長さんは構わずぐいぐい説明を求めます。

そこからまた30分、声をからしたベルさんはひたすら説明を続けるのでした。

めでたし、めでたし?